10月8日(金) ある日の出来事

 

今日は世界的にあることが注目されている日。「N」の授賞式があるという。
そして受賞者の候補に「L」氏が挙がっとることも知っとった。…というのも「L」氏は北京師範大学を出とるそうで、僕も密かに注目しとったんよ。

「L」さんについて簡単に説明。

「L」さんは北京師範大学を出られとって、文壇デビューも北京師範大学。そんなことが理由で、「N」受賞の候補になった時点から注目していました。「C」の独裁を批判し、「T」にも参加。「M」を再三要求して再三逮捕投獄。中国国内の「M」活動家として当局にひたすら重点マークされ、中国の国会・「C」大会の開催時には軟禁や外部との連絡遮断処置を受けていたと言います。

僕のルームメイトのポールも興味があって、二人で誰が受賞するんだろうねーと数日前から話し合いようたんね。
そしたら夕方の6時くらいに、日本の読売新聞を見てみると「L」氏が受賞したと分かって、ポールと「ぬお!」と興奮。

…で、それとはまた全然別に、夜は大学近所の屋台へご飯を食べに行きました。


ポールと一緒にご飯を。ここは串焼きもビールも安いし、ええんよー。
鉄板焼き、串焼き、牛肉麺、関東煮(おでん)を買って、ビールでカンパーイ。


そうこうしよったら、隣の中国人たちがやけに騒がしいことに気付く。
何度も乾杯をし、ビール瓶もすごい数。顔が真っ赤っかの人も。

ポールと一緒にどうしたんかな?もしかして「L」氏の「N」受賞を喜びょうるんかなあっておもしろがって言い合いようたんよ。
それで「何か良いことがあったんですか?」と聞いてみると、

「『L』氏が『N』受賞したのを喜んでいるんだよ!」

………!?ほんまに!?

中国では徹底した情報統制で、「N」のニュースなんて流れとらん。そして中国外交部は「ノルウェー政府との関係が危ぶまれる」まで言いようるのに。それを、お祝いするやこ…逮捕されてもおかしくない。受賞後、「L」氏のおる刑務所前では取材に訪れた一部記者を公安当局が連行したとも聞いとる。

僕は日本人で、ポールはカナダ人。ここの屋台には他にアメリカ人の留学生が二人おって、彼らから「自由の国から来た、平和の使者たちだ!」と歓迎された。一緒に飲もう、と輪に入れてもらった。


そしたら代表格の方が、スピーチを始めた。

「ここには、自由と民主のある国から来た平和の使者たちがいます。アメリカ、カナダ、日本のお友達です!」
彼らは「C」を恐れない、「M」活動家の人々でした。「L」氏が北京師範大学出身ということで、近くの屋台で飲んどったとのこと。


そしたら代表の人が「みなさん、あそこの店の看板、見えますか?」と指をさす。
そこには「寿衣寿盒」という文字が。これは葬式用具店で、「寿衣」が死に装束、「寿盒」が骨壺のこと。

「あれは『C』に手向けるものです!」

僕らは驚いてしもうて、口に手を当てて声も出せんかった。そんなこと大声で言うたら…連行されるかもしれんのに…。


彼らの安全もあるので、ここで彼らの顔を公開することは出来ません。
でも彼らはほんまにええ人たちで、ものすごい僕たちを歓迎してくれて。中国によう来たね~っていう感じ。


彼のTシャツには「我没有敌人(私に敵はいない)」との文字が。
裏側には「我的最后陈述(私の最後の陳述)」とあった。


相当彼らは喜んどるみたいで、ずっと乾杯をしようた。


こちらがアメリカのカリフォルニアから来とる留学生。
女性のほうは華僑らしく、中国語が上手。男性の方も結構中国語ができる。
そして真ん中で頭を抱えとる人は「M」活動家の方で、お酒を飲み過ぎたみたい。


その後、リーダーの方とちょこっと話を。
「L」氏の受賞はツイッター、外国のニュースサイトで知ったらしい。

そして自分たちがどういうことをしてきたか、それによって「C」からどういうことをされてきたか、詳しく教えてもらった。彼らはほんまに「M」のために命も惜しまない人たちなんじゃなあ…と思った。

いろいろ話をしようたら、是非場所を変えて飲まないか?と誘われる。
え?…どうしよう。と迷いようる僕たちをよそ目に、もうタクシーをつかまえて、乗りなさいと言いようる。

もうこの時点で午前0時を回っとるけん、あたりは暗い。どこの店も閉まっとるし…こわい…。

僕とアメリカ人の留学生で、聞いてみる。

「どこに行くのですか?」
「それが分からないと乗ることは出来ません」

すると回答は、

「良いところです」

僕たちがずっとためらっとったら、となりから別の男性が、「バーだよ。怖がる必要もない。僕たちは君たちに伝えたいことがたくさんあるんだ。」と言ってきて。そこでアメリカ人の留学生たちと携帯電話の番号を交換しておき、何かあったら連絡を取り合えるように。それでアメリカ人たちは最初のタクシーへ乗り、僕とポールは2台目のタクシーに乗車。


ポールはタクシーの中で絶えずiPhoneのGPS機能でどこを走っているかチェック。
そして到着したのは、一軒のバー。店名も、どこにあるかも、ちょっと言うことはできません。

ここまで来ると、緊張もほぐれて、ちょっと安心。中は普通のバー。普通の客もおる。

「C」による規制について、いろいろと話を聞かせてもらった。ほんまに色々と。

「あなたたちは幸せです。自由があり、『M』のされた国に生まれたのです。それが当たり前だと思っているでしょう。それが当然なのです。私たちはその当然のことを実現させるだけのために牢屋に入れられ、暴力を振るわれ、中には命を落とす人もいるのです。」 「あなたがたが中国に留学に来られたことを嬉しく思います。中国のいろんなところを見て帰ってください。」

自分たちが自由の報道の中で、自由に見たいものを見て、批判したいものを批判できる…ほんまに当たり前と思いようた。
中国語には「身在福中,不知福」ということわざが。意味は、人は幸せなときには幸せに気付けない、ということ。

いろんなことに気付いた一日だったなあ…と思います。


今日のメモカレンダーへ戻る