先日「突然、東京の中国大使館の注意喚起が届いた」という記事を書きました。日本を訪れる中国人観光客に対し、日本では凶悪事件が相次いでいるから注意せよと呼びかけるものです。

突然届いた注意喚起
日本ではまもなくゴールデンウィークですが、中国でも連休が控えています。5月1日のメーデーに合わせた5連休で、中国では「労働節」と呼ばれています。きっと日本に遊びに行く中国人もたくさんいるでしょうね、各地で中国人観光客の姿が増えると思います。ちなみに昨日、中国のニュースアプリから次のようなプッシュ通知が送られてきました。東京の中国大使館が日本に来る中国人観光客に対して注意喚起をしたというのです。曰く、日本では最近治安が悪化して、事件が増加しているので注意せよとのこと。具体的には次のようなことを挙げ...

どうやら、この注意喚起が出たのには「背景」があるようです。これが発表されたのは4月17日。実はこの数日前に日本の外務省も中国渡航に関連する注意喚起を出していたのです。

このページには発表日時をはっきり書いていませんが、情報によると4月14日とのこと。つまり中国大使館が注意喚起した3日前になります。中国へ行く修学旅行などを検討する学校関係者に宛てたもののようです。

外務省海外安全ホームページで御案内しているとおり、最近、中国各地では、人の集まる場所(公園、学校、地下鉄等)やその近辺、路上において、刃物によって一般市民が襲われる等の重大事件が発生しており、邦人が犠牲になる事件も発生しています。中国を渡航先とする修学旅行等を検討される学校関係者の皆様におかれては、引き続き外務省海外安全ホームページ等を十分御参照の上、渡航の是非を御判断いただくようお願いいたします。

なるほど、中国大使館の突然の注意喚起はこれに対する意趣返しだったわけですね。この国は「見てくれ」「体裁」をとても気にします。他国、それも外務省みたいな組織から「おたくの国は危険です」なんて言われるのは、とても我慢できなかったのでしょう。

今日の中国外務省の定例の記者会見では、報道官が日本の注意喚起に反論・批判していました。

日本が発表したいわゆる「注意喚起」の根拠が何なのか、私には分からない。日本のいわゆる「注意喚起」は悪意をもって、いわゆる中国の「安全リスク」をかき立てていて、政治的操作の意図があるのは明らかだ。中国はこれに強い不満を示すとともに、断固反対する。日本側にはすでに厳正なる申し入れを行った。

中国外務省定例会見(2025年4月22日)

根拠が分からないって……本気で言っているんでしょうか。去年、日本人の男の子が相次いで襲われ、そのうち1人は不幸にも亡くなった事件を知らないとは言わせません。

すると米国紙ブルームバーグの記者が次のように質問しました。

最近、中国政府は日本に住む中国人に向けて、日本では中国国民に対する凶悪事件が多数発生しているとして注意喚起を発表した。聞きたいのは、なぜ日本の注意喚起は両国関係に悪影響を与えると見なされるのに、かたや中国政府による注意喚起は公平で正常なやり方だと言えるのか。

中国外務省定例会見(2025年4月22日)

いやはや、至極まっとうな意見です。それとともに私が心の中で抱えていたモヤモヤした感じをまさに言語化してくれた質問でした。日本の注意喚起を批判する割に、あなたも注意喚起を出しているじゃないか、と。

これに対し、報道官は次のように答えます。

メディアを見れば日本で安全リスクが生じていると伝える報道がたくさんあり、これは皆さんが確認できる事実だ。中国政府には日本にいる中国国民に対して関係する注意喚起を発表する責任と義務があり、これは海外にいる中国国民の正当かつ合法的な権利・権益を守るためでもある。

中国外務省定例会見(2025年4月22日)

いやあ、だったら日本の外務省が「中国にいる日本国民に対して注意喚起を発表する責任と義務」や「海外にいる日本国民の正当かつ合法的な権利・権益」のことをどう考えているんでしょう。日本は注意喚起しちゃダメだけど、中国は注意喚起してもいいってこと?

そもそも、この国では未だに日本人の男の子が被害に遭う事件が伝えられていないのです。自国の安全リスクには蓋をして伝えないのに、メディアの報道をもって「日本で安全リスクが生じている」とする主張自体、筋が通らないのではないでしょうか。

日本の注意喚起を批判するのに、自分たちだって注意喚起を出して対抗。アメリカのトランプ政権の関税をめぐっても、これを批判する割に自分たちだってアメリカに追加関税を課して対抗。いずれにしても結局「あなただってやっているじゃない」……そんな感想しか出てこないのです。