私は北京市内のマンションに住んでいますが、ひとつ後悔していることがあります。それは、住み始めたときに隣近所の方へ挨拶をしなかったことです。日本では引っ越しをしたら、タオルや洗剤などのちょっとした品を持って挨拶に行くのが一般的ですよね。でも、中国に同じような習慣があるのか分からなかったのに加え、引っ越し作業に追われて、結局タイミングを逃してしまいました。
その後、廊下を挟んで向かいの部屋には中年の男性が住んでいることが分かりました。マンションの食堂でちょこちょこお見かけするのですが、今さら「お向かいに住んでいます」なんて挨拶するわけにもいかず、お互い隣近所であることは分かっているものの、積極的に会話するわけでもない微妙な感じになってしまいました。当初は、まあそれでもいいかなという感じだったのですが、娘が生まれてから賑やか……というか、うるさく騒いで隣近所に迷惑をおかけするようになったので、ああ、きちんと挨拶しておくんだったと思うことが増えてきたのです。
ある日、出勤の際にマンションのエレベーターホールで向かいの部屋の男性と一緒になりました。少し目が合ったので、私から「いつも娘がうるさくて申し訳ありません」と声をかけたところ「子どもはそういうものです」と返してくれました。何か月になったのか聞かれたので「もうすぐ1歳5か月になります」と伝えたところ、早いものですねえとしみじみしてくださいました。お話を聞くと、男性も私とほぼ同じ時期にマンションに引っ越してきたとのこと。
そして今日の話。
仕事を終え、夜の9時半頃に帰宅しました。マンション1階でエレベーターを待っていたところ、ふと隣から「いつもこんなに帰宅が遅いんですか」と話しかけられました。驚いて振り返ると、向かいに住む男性でした。いつもこんな時間ですかねえ、そちらこそ同じ時間の帰宅じゃないですか、なんて答えると「私は遅めの出勤だから、これで普通なんです」なんておっしゃっていました。
そのまま一緒にエレベーターに乗り、同じフロアまで上がると、降り際に男性が「これ、どうぞ」と脇に抱えていた箱を差し出してくれました。どうやらライチが入っているようです。妻も娘もライチが大好きなので、「きっと喜びます」とお礼を言って、ありがたくいただきました。

帰宅して中を見ると、立派なライチがぎっしり詰まっていました。こうしてお裾分けしていただけるのも、隣近所の方と顔見知りになったからこそですね。お裾分けというか、持っていた箱をまるごとくれちゃったわけですが。
今は日本でも隣近所に挨拶をしないという人が増えているんでしょうか。かく言う私も独身時代は「挨拶なんて」と思っていたかもしれません。けれど娘が生まれた今は隣近所と顔見知りになっておくことの大切さを実感しています。まずは「うるさくしてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」という事前のお詫びという意味があるでしょう。小さい子どもを持つ親として「何かあったら頼らせてください」という気持ちを込めて挨拶をしておく意味もあると思います。
北京生活を終えて日本に帰国した暁には、新住居できちんと隣近所にご挨拶したいと思います。
最近のコメント