今日、昼食を食べようと飲食店に入ったところ、複数人で座る大きなテーブルに案内されました。知らない人間同士で相席していたわけですが、私から見て斜め左前に母親と娘が座っています。母親は40代前半で、娘は小学生というところでしょうか。すでに食べ終えているようですが、母親はスマートフォンのゲームに夢中で、スマホを横に持って両手でプレイ。娘はそれを横からのぞき込んでいます。で、どうやらそのゲームにはゲームをプレイしているオンライン上のプレーヤーと音声で会話できる機能があるみたいなんですね。最初は母親がひとり言を話しているのかと思ったのですが、よくよく聞いてみるとスマートフォンのスピーカーから返事が聞こえてきます。イヤホンも付けていないので周りに丸聞こえですが、母親は全く気にしていません。
そのとき、店員が母親に話しかけました。店内が混み合っているので席をひとつだけずれてもらえないかと依頼しているようです。しかし母親は聞こえてか聞こえずか、全く動くそぶりを見せません。依然としてゲームに夢中。けれど店員はジーっと反応を待っています。周りの人は私を含め、どうするのだろうと固唾をのんで見守っていたと思います。それだけに居心地の悪い時間だけが流れました。すると、母親は突然店員の顔を見て「何?」とだけ答えました。しかし店員の説明を聞こうともせず、すぐさまゲームに戻ってしまいました。結局、店員はあきらめて別の席に向かったようです。
私は正直、このやり取りを見て気分が悪くなりました。日本なら混み合う昼時に食事を終えた人が席を立たずにゲームをプレイし続けるって非常識だと思います。まあ、文化の違いがあるので日本がどうだとか言いますまい。しかし中国においても店員を無視するのは失礼なことです。
その後、地下鉄の駅に向かいました。ホームに並んで電車が来るのを待っていると、1人の男性が列を無視するように割り込んできました。北京でも電車に乗る際は「先下後上」(降りる人が先、乗る人は後)を守るよう周知されているので、私たちはホームドアの両脇に2列で並んでいました。この男性はその列の間、つまり電車から降りる人のためにあけている場所に堂々と立っています。
顔や姿から察するに地方の方と見受けられます。まあ、こればっかりはしようがありません。中国は広いので、地方出身だと電車の乗車マナーに疎いこともあるでしょう。その人は電車が到着するなり降車する客をかき分けて我先に乗車し、早々と席を見つけて座ってしまいました。
ここまでなら良いのですが、その男性、今度は隣に座った老齢の男性の肩がぶつかったとか何とか言い出したのです。言われた老齢の男性も腹を立ててしまって売り言葉に買い言葉、汚い言葉で罵り合いが始まりました。近くにいた別の男性が老齢の男性に「こいつに構わないほうがいい、行った方がいい」とジェスチャーをするのですが、怒りが収まらないようです。かたや騒ぎを起こしたほうの男性は「我こそ正義」と言わんばかりのしたり顔です。
十数年前に私が北京に留学していた頃、こうした場面によく出くわしました。その度に中国人の友人からはこう言われたものです。
“国情不一样”(国の事情が違いますから)。
中国は日本に比べて面積も広いし、人口も多い。かつて一億総中流と言われた日本と違って、都市部と農村部で格差は大きいのが中国。日本とは事情が違うんだよ、しようがないよ……そういう意味が込められています。
でもね、列に並ばないところまでは良くても、罵り合いも「事情が違うから」なんでしょうか。そんなことないでしょう、いくら中国の地方だって褒められたものではないはずです。スマホゲームに夢中で店員の呼びかけを無視する母親だって同じで、そういうことを「事情が違いますから」と言い訳し続けた結果、北京のような都市部でもそういう“不讲礼貌”(礼儀をわきまえない)な大人が出て来てしまったんじゃないですか。中国という国の「ひずみ」みたいなものを目にした1日でした。