清明節の連休を利用して香港に行きました。
2泊3日の短い日程ですが、まあ、香港ディズニーランドに行ければいいかなというくらいの旅行です。それに1歳の娘を連れて行くのに、あまり長い旅行だと疲れさせちゃいますしね。
今回は市中心部から若干距離のある北京大興国際空港からの出発でした。午前3時半に起床し、午前6時の空港到着を目指して向かいました。連休初日なので混雑を覚悟していたのですが、意外とそうでもありませんでした。朝早かったから?中心部から遠い大興空港だから?よく分かりませんが、チェックインから出国手続きまであっという間でした。北京首都国際空港のほうは混雑していたかもしれません。
ただ、問題が発生したのは香港の到着後。ターンテーブルでスーツケースを受け取り、到着ロビーに出て来たところで……ベビーカーを受け取ることを忘れていたーー!!いつもなら娘を乗せているのでベビーカーを忘れるはずがないのですが、当時娘は私が抱っこ紐で抱いていて、私も妻もすっかり頭から抜け落ちていました。本当に情けないことです。空港職員に事情を説明して特別に入らせてもらい、何とかベビーカーを回収することができました。こういう旅行の際には考えることがたくさんあって、ついつい注意力散漫になりますね。反省。
時間はすでに午後1時過ぎ。気を取り直して、空港で昼食をとることにしました。
事前に調べておいた1964年創業の老舗「何洪記」に行きました。本店は銅羅湾(コーズウェイベイ)にあるミシュラン1つ星、香港人で知らない人はいないほど有名なんだそうです。こちらは空港の支店で、私たちは運良くすぐ入れましたが結構な人が順番待ちしていました。
注文したのは「エビ入りワンタン麺」(“正斗鮮蝦雲吞麵”)と「新鮮エビの湯葉巻き」(“鮮蝦腐皮卷”)。大変美味でした。特においしかったのが名物のワンタン麺で、ワンタンのエビがプリプリでした。魚介と豚骨のダシが効いているスープはあっさりしているのにコクがあり、麺はアルデンテというか、噛みごたえがあって私の好みにドンピシャ。小ぶりの碗だったので、もう1杯でも食べられてしまうくらいでした。空港ってすぐに後にすることが多いですが、こうしてミシュランの味が手軽に楽しめるなら「空港で食事をしてから移動」っていうのもアリなんじゃないかと思います。
空港からホテルまでは「ウーバー」を利用しました。アプリ上で乗車場所と降車場所を指定し、車の種類を選べば配車されるサービスです。空港の駐車場エリアで配車依頼すると、数分後にはテスラを運転する若いお兄ちゃんが来てくれました。支払いも私のクレジットカード情報をアプリに紐付けているので現金いらず、とても簡単でした。もちろん公共交通機関に比べると運賃は高くなりますが、大量の荷物に加え、1歳の娘がいる私たちにはとても助かりました。
ホテルは九龍半島の南端、尖沙咀(チムサーチョイ)に取りました。荷物を置いてから近所をウロウロしたのですが、このあたりは「いかにも香港」という雰囲気があっていいですねえ。
特に街に溢れる「繁体字」が美しいです。北京や上海といった中国の都市では基本的に「簡体字」という漢字が使われています。簡体字というのは1950年代に中華人民共和国で制定された、従来の漢字を簡略化したものです。当時の中国は識字率が低かったため、漢字を簡略化することで覚えやすくすることが目的だったんですね。一方、香港や台湾では本来の漢字が使われ続けていて、これを「繁体字」と言います。
繁体字は漢字本来の姿なだけあって美しいです。街の案内図を見たら“中間道兒童遊樂場”とか“尖沙咀海濱花園”と書いてあるわけです。これが中国大陸だったら“中间道儿童游乐场”、“尖沙咀海滨花园”と、こうなるわけです。ね、何だか味気ないでしょ。繁体字の溢れる香港の街を見ていると、ああ、もしかしたら私が昔から抱いていた「中国の原風景」って香港なのかも、と思っちゃいます。
もうひとつ私がうれしかったのは、街に「香港らしさ」が結構残っていたことです。
私が初めて香港を訪れたのは2012年でしたが、当時は香港名物のネイザンロードに迫り出した看板なんかも残っていて「アア、まさに香港だなあ」と感動しました。しかし2017年、再び香港を訪れると「香港らしさ」を全然感じなかったんですよね。看板も老朽化を理由に大半が撤去されてしまい、それより何より中国大陸との一体化が相当進んだように思えたのです。
2019年から2020年にかけて、香港では大規模な抗議活動が起きました。当時私も固唾を呑んで見守っていましたが、最終的に「香港国家安全維持法」の成立をもって幕を閉じました。この法律は中国政府の意向に反する行為を取り締まる法律で、香港の高度な自治を保障する「一国二制度」の崩壊だとする声も出ました。香港が享受していた自由な雰囲気は失われ、やがて「中国の一都市」に過ぎない存在になっていくのではないか――そのように感じられて仕方ありませんでした。
今回、活気溢れて賑わう尖沙咀の雰囲気を見て、初めて香港を訪れたときの「香港らしさ」を感じました。そして香港は香港のままなんだと感じ、何だかとてもうれしくなったのです。もちろん中国政府による取り締まりは緩まっていません。指名手配され、海外に逃げた民主活動家たちのことも忘れてはいけないでしょう。けれど、こうした環境においても香港の人たちがたくましく暮らしている姿を見ると、彼らの底力を感じざるを得ませんでした。
もうひとつ大きく変わったと感じたのは中国大陸からの観光客の爆発的な増加です。もちろん清明節の連休だったからという事情もあるでしょうが、すれ違う人みんなが中国人でした。
ビクトリアピーク(太平山)に登って100万ドルの夜景を見ようと中環にあるピークトラムの乗り場に行くと、なんと長蛇の列!ある程度の混雑は予想していましたが、それを遙かに超えていました。聞こえてくる言葉は中国大陸の北京語ばかり、きっと中国の方が多かったんでしょうね。係員に「どのくらい並ぶことになりそうですか」と聞くと、約1時間半とのことでした。
私たちは事前にピークトラムのチケットを買っていたので乗らないわけにはいかない……ということで、渋々並び始めました。30分近く並んだところで、私たちの後ろに男性がシレッと割り込んできました。本人は涼しい顔でスマートフォンをいじっています。みんながルールを守って並んでいるというのに、私はいてもたってもいられなくなって「列の最後尾はもっと後ろですよ」と中国語で声を掛けました。すると男性はバレたかといった顔で「あ、そう。後ろですか」とだけ言って、立ち去りました。みんながみんなそうだと言うつもりはありませんが、こうして中国の外でもルール違反をする中国人がいるのは困ったことです。
結局、トラムに乗るまではやはり1時間半ほどかかりました。ただ展望台まで来ると人が多いことは多いものの、見られないほどではありませんでした。やはり100万ドルの夜景ですね、とてもきれいでした。
市街へ戻るのはウーバーを利用しました。と言うのも、おそらく帰りのトラムは行き以上に激しく混雑するだろうと見越していたからです(実際すごい混雑でした)。ウーバーは15分ほど待ったものの、山頂まで来てくれました。トラムの大行列を並ばずに済み、尚且つホテルの入口まで運んでくれるのは本当に助かりますね。もちろん公共交通機関に乗った方が安いですし、それこそ旅先の雰囲気を味わう醍醐味なのは承知しています(私もそちらのほうが好きです)。けれど1歳の子連れ旅ですし、なるべく娘に負担をかけたくなかったこともあり、便利に活用させてもらいました。
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