最近、あまり中国映画を見ていなかった。
今回久しぶりに見たが*1、青春映画でありながら、いじめ、受験戦争、格差社会といった現代中国のさまざまな課題を描いていて、いろいろ考えさせられる佳作だった。
【ネタバレがあります】
少年の君(中国/2019)
舞台は「安橋市」という架空の街だが、ロケ地は見ればすぐに分かる、重慶市だ。ビルとビルの間を縫うように渡るエスカレーターや、狭い面積を上下移動するらせん状スロープなど、まるでダンジョンのような町並みが映画の雰囲気にとてもピッタリで、印象的だった。
映画は”高考“*2まであと数日という高校生たちのシーンから始まる。中国の過酷な受験戦争は日本の比ではない。特に一人っ子政策のもとに生まれた子どもたちは親・祖父母・親戚の期待を一身に背負い、そのプレッシャーたるや想像に難くない。学内の空気は殺伐とし、いじめが起きるようになる。
まず、主演2人の演技力に圧倒された。特に女子高校生役を演じた周冬雨(チョウ・ドンユイ)が1992年生まれって、私と3つしか違わないじゃないの。すると映画の撮影時も27歳ごろだったはずだけど、役に全く違和感がない。むしろ周りの高校生役より若く見えるほど。
ストーリーもよく練られていて、ああ、このまま若者どうし幸せに終わるのかな?と思ったら事件が起きて、その展開も真相について二転三転するので、サスペンスとしての見応えもあった。
映画を見ていると「少年」と「大人」ということばがよく出てくることに気付いた。
没有人会为另一个人扛上强奸罪和杀人罪。
他人のために強姦罪や殺人罪を肩代わりしようなんて人はいないわ。──你和我不会,但他们还是少年。
僕たちはそうだろう、けど彼らはまだ若い。
自由了,感觉怎么样?我是说变成大人的感觉。
もう自由だ。気分はどうだい?大人になった気分というのは。
中国語の”少年“という単語は日本語と違って男女両方を指す。この映画の原題《少年的你》もそのまま訳せば『少年の君』だが、ニュアンス的には男の子も女の子もひっくるめた「若者の君たち」という意味合いが強い。青春時代ならではの純愛、無垢さ、それ故に起こしてしまう過ち……大人から見た若者たちへのさまざまな思いがタイトルに込められているのだろう。
今やかの国では現代社会の歪みに焦点を当てる映画の制作や上映は難しいと思っていただけに、今回は制作側にもいろいろと苦労があったんじゃないかと感じた。エンドクレジットが始まったとたん、延々と「政府各部門はいじめ問題を解決するため、こんなことをしてきました」とか「いじめはいけません」みたいな押しつけがましい説明が始まり、映画の感動がそがれるなあ……なんて思ったものの、まあ、きっと必要だったんでしょうね。
★★★★☆