今日、北京で剣道の稽古を見に行く機会があった。

実は私も小さい頃は剣士だった1人。小学2年生から高校生になるまで続け、スポーツ嫌いな自分としては唯一人並みにできる運動だった(と思っている)。

この北京の道場は中国人のご夫婦が経営していて、ご夫婦も揃って剣士。旦那さんは日本の伝統文化が好きで20年ほど前に習い始め、奥さんは人気漫画の「ONE PIECE」に登場するキャラクター「ゾロ」が好きで始めたそうだ。お二方とも筋金入りの日本好き。

旦那さんは31歳で習い始めたそうだが、いや、その腕は大したものだった。段位は五段。六段は日本に行かないと審査を受けられないらしく、早く日本に行きたいと話していた。ちなみに日本は日本で防具を置いていて、コロナ禍になる前は1年に何度も日本へ行って剣道の稽古や大会に参加していたそうだ。日本を代表する名だたる剣道選手のサインが入った手ぬぐいを見せてくれ、「大会で偶然お会いしたから是非とお願いしたんだ」と嬉しそうに話してくれた。

北京で営んでいる道場は、中国でも稽古する場をつくりたいと思って始められたとのこと。いざ稽古を拝見すると、最近習い始めたばかりだという20代の若者がちょこちょこいる。いやあ、日本では見られない光景だ。と言うのが、日本で剣道というと私のように小さい頃に習い始めることが多く、20代の剣士となると大体10年近い経験者であることが大半。つまり20代を過ぎてから剣道を習い始める人はほとんどいないと言っていいだろう。

いざ話しかけてみると、おしなべて日本好きだという人ばかりだ。漫画で見たからやってみたかったとか、格好良さそうだから習い始めたとか、これまた日本と状況が全然違って驚いてしまった。同じ理由で剣道を始めようという若者が日本にどれほどいるだろうか。

経営者の旦那さんは「幼い頃に剣道を習う日本人は多いのに20代以降になるとぐっと少なくなるのはなぜか分かりますか」と言う。私が「なぜでしょう」と聞くと「日本の剣道の稽古はとても厳しいので、辞めたいと思う子が多いのだと思います」と答えてくれた。

わはは、いや、その通りだ。私は小学5年生の1年間だけ、全国大会で活躍するレベルの道場で剣道を習ったことがある。それはそれは厳しい稽古で、ぶたれるなんて日常茶飯事だし、今なら問題になりそうな指導も多かったように思う。人生で一番辛かったのはいつだったかと聞かれれば、今でもあの1年だと答えるだろう。

旦那さんは「厳しいから日本の剣道は強いんですよ。私の道場は趣味として来ている人が多く、楽しんでいるだけです」と笑って話していた。素振りをする生徒さんたちを眺めていると、確かにみんな楽しそう。私はとにかく剣道というと自らの体験から「きびしい」「しんどい」と思ってしまうが、そんなイメージとはまるで無縁だ。今は新型コロナウイルスの感染対策でまだ中国から日本に自由に行くことはできないが、みんなにこにこしながら「本場の剣道を見に行きたい」と話していた。

何だか思わず「うるっ」としてしまった。早く両国の往来が正常に戻りますように……彼らのためにも。そして、その折には彼らが日本で見たいもの全てが見られますように。

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