今日は映画を見に行った。新海誠監督の『すずめの戸締まり』。日本では去年11月に公開されていたらしいけど、中国では昨日公開されたばかり。現地メディアの報道によると、初日の興行収入は9537万元(約18億円)、日本アニメの初日の記録としては歴代1位になったらしい。

扉の向こうには、すべての時間があった―『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督 集大成にして最高傑作『すずめの戸締まり』11月11日(金)大ヒット上映中.

【ネタバレがあります】

すずめの戸締まり(日本/2022)

静かな町に住む17歳の鈴芽(すずめ)はある日、扉を探しているという旅の青年に出会う。彼を追った鈴芽は山の廃虚に佇む古い扉を見つける。やがて日本各地にある扉が開き始め、その向こうから訪れる災いを防ぐために、鈴芽は扉を閉める旅に出ることに。

私が新海誠監督の作品を初めて見たのは定番だけど『君の名は。』。その美しい色彩、リアルな町並みの描写、音楽のマッチング、いろいろと印象に残っているけど、今回の作品もまさにそんな「新海ワールド」がたっぷり詰まっていた。

前提知識の全くないまま鑑賞し(予告編は見たけど)映画の冒頭が主人公の鈴芽が住む宮崎から始まったので、このまま九州を舞台に描かれるのかと思いきや、四国が出て、近畿が出て、東京が出て、最終的には東北に至る。その東北は「東日本大震災」の震源地として描かれているんだけど、いろんな伏線が東北で回収されて「ああ、そういうことだったのか」と繋がったときには鳥肌が立つ思いだった。今思い出せば『君の名は。』もそんな映画だったなあ。

やや冒頭の展開が早すぎる(主人公の鈴芽が何の葛藤もなく扉を閉める旅に出発しちゃうとか、もう1人の主人公、草太を好きになっちゃうのが早すぎるとか)は感じたけど、そんなことを言うのは野暮なんだろう。とにかく絵が美しくてリアル。特に東京のシーンはどの町並みも普段目にしていた景色ばかりなので、映画を見ている間は日本に帰っているような気分だった。あれ?今、北京の映画館にいるんだよね?と思うと、不思議な気分になったくらいだ。

中国では今日が公開2日目なこともあって、劇場は満員御礼だった。見に来ている観客も、ああ、新海誠監督好きなんだなあと見て取れる人ばかり。映画館には上の写真のような等身大の看板が至る所に並んでいたけど、みんな写真を撮っていた。

これだけの人が日本のアニメを楽しんでいるんだなあと思うと、そのソフトパワーの影響力を思い知ると共に、それに貢献する新海誠監督はやっぱりすごい。

いざ席に着くとマッサージチェアになっていた。お金を払えば動くらしい。ただ、映画を見ながらたまに突然動きだすこともあり、あれ?と思うと数十秒で止まる。意外と気持ちが良かったので、次はぜひ試してみてもいいかなあと思った(笑)。

あと、これは中国の映画館あるあるかもしれないが、おしゃべりをする人が多い。まるで自宅で映画を見ているが如く「あ、このシーン○○じゃない?」「さっきの発言はないよねえ」みたいなツッコミを入れる。映画館で映画を見るときには没入したい身としては、気が散るというか、静かにしていてほしいところだ。一方で、ネタのシーンには観客一同ゲラゲラ声を出して笑うのが印象的だった。これは逆に何だか一体感があって(笑)私も釣られて笑ってしまうシーンがいくつもあった。

今日の映画は音声が日本語、字幕が中国語。つまり観客のほとんどは日本語というより、下に出る中国語字幕を見て笑うわけだが、訳し方ひとつで意味が通じなくなるネタもあることを思うと字幕翻訳者に敬礼をしたい気分。ネタでなくても日本を舞台にした映画である以上、訳しにくい言葉はたくさんあっただろう。途中、「掛けまくも畏き、日見不の神よ。遠つ御祖の産土よ……」と祝詞を唱えるシーンがあったけれど、中国語では漢文調に“思而复思,祈唤日不见之神,祈唤祖祖代代之土地神……”と訳され、呪文感が表現されていた。ううむ、見事だ。

ちなみに『すずめの戸締まり』の中国語タイトルは《铃芽之旅》(『鈴芽の旅』)。このタイトルが正式に決まる前には《铃芽的门锁》(『鈴芽の扉の鍵かけ』)とか《铃芽户缔》のように日本語の「戸締まり」をそのまま漢字に置き換えた表現も散見されたよう。何とか4文字にしたかったんだなあ、という苦労も伺える。

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