中国で先月30日に公開されたばかりの映画『オッペンハイマー』を見に行ってきました。世界初の原子爆弾を開発し「原爆の父」と呼ばれた物理学者、ロバート・オッペンハイマー氏の生涯を描いた作品です。日本での公開は日付さえ決まっておらず、インターネット界隈ではその理由をめぐって様々な憶測が出ています。そんなこともあって中国で公開された折には是非見に行ってみたいと思っていました。
【ネタバレがあります】
オッペンハイマー(アメリカ/2023年)
日本人である私が作品を見るに当たって念頭にあったのは、やはり広島と長崎への原爆投下でした。作品でどう描かれているのか、中国の人たちがどう反応するのか、これが最も関心を持っていた部分です。ただ結果から言うと、作品では詳しく扱われていないどころか、日本人さえも登場しませんでした。見終わって分かったのですが、この作品はあくまで「オッペンハイマーの数奇な人生」を描くものなんですよね。それ以上でも、それ以下でもない。現に原爆開発をめぐるストーリーは前半で終わり、後半は主にオッペンハイマー氏が冷戦期に経験した「赤狩り」についてでした。
日本国内の論調には原爆が投下された後の惨状が全く描かれていないことを批判する声もあるようです。確かに作品ではオッペンハイマー氏がラジオ放送で広島への原爆投下を知るシーンがあったのみ。あまりにあっけなく広島と長崎への原爆投下が描かれていて、肩すかしを感じたのは事実です。
ただ、いくつかの映画評論記事が指摘しているような、いわゆる「原爆礼賛」作品とまでは感じませんでした。オッペンハイマー氏が原爆を開発したことを後悔している(とみられる)描写は端々に出てきます。さらにオッペンハイマー氏の脳内で人々の顔が突然(原爆被害を受けたように)溶け出して見えるシーンや核融合を表しているような音と光の妄想シーンには、想像をかき立てる「怖さ」がありました。
どういった理由で日本公開が決まっていないのかは知る由もありませんが、私はこの作品、日本で公開したらいいのにと感じます。世界で初めて原爆が投下された国の人々が、原爆がどのように開発されたのか、開発した人物はどういう思いを持っていたのか知っていていいと思います。私個人は別に日本人の思いを踏みにじるような描写があったようには感じません。
会話劇なこともあり、言語の理解力がものを言う作品でした。英語は言わずもがな、頼りにしていた中国語字幕も難しい表現がたくさん登場しました。100%の理解ができた自信はありません。もし日本で公開された暁には、ぜひもう一度見に行きたいと思います。