タイトルはピンクレディーの有名な歌と同じですが、関連性はありません。どこかで予告編を目にして(どこで見たのか記憶にないのです、ツイッター……もといXかしら)いい雰囲気だなあ、見てみたいなあと思っていたらAmazonプライムビデオで公開されていることを知り、鑑賞しました。
【ネタバレがあります】
渚のシンドバッド(日本/1995年)
高校2年生の伊藤は、同級生で同じ吹奏楽部に所属する同性の吉田に思いを寄せながら、それを伝えられずにいる。一方、数か月前に転校してきた女子生徒、相原は少々変わり者で周囲から浮いていたが、なぜか伊藤と気が合って2人は親しくなっていく。そんな相原にはかつてレイプされるという悲しい過去があった。やがて伊藤はゲイだと噂を立てられてしまい、意を決して吉田へ自分の本心を語ろうとするが……
90年代ならではのノスタルジックな雰囲気が終始漂う作品。私は個人的に「エモい」という言葉があまり好きではありませんが*1、ああこういうのが「エモい」ということなんだなと教えてくれる映画です。
伊藤がクラスメートの吉田に特別な感情を抱いていることをいち早く察するのが相原。相原自身も前に通っていた高校でレイプされて心に傷を負っているからこそ、伊藤が「自分は他の人と違う」という、ある種の孤独を抱えながら生きていることを敏感に感じ取ります。伊藤も相原が自分に偏見を持たずに接していることを感じるので、2人の距離は縮まっていきます。
登場人物は私より上の世代ですが、作品で描かれる敏感で微妙な友人たちとの距離が自分も高校生のときに感じていた空気と映像に重なり、とてもリアルでした。自分にもこんな時代があったなあ、もう戻れないんだなあ……と思う反面、うーん、戻れたとしても戻らないかな?とも。思春期や青春時代ってどうにもならないけど、どうにかして生きていかなきゃいけないんですよね。
2時間の大作でしたが無駄なシーンがひとつもありませんでした。岡田義徳が特にすごいんですけど登場人物の演技があまりに自然なので、見ていてこちらが恥ずかしくなったり、思わず笑ったり、見ていられなくなったり……映画を見てこんなふうに感じることは滅多にありません。あと相原役は、何と浜崎あゆみなんですね。歌手としてデビューする前なんだそうですが、女優としても成功していたんじゃないかと感じる演技でした。
いろいろ印象に残った台詞はあるんですが、そのうちの一つが終盤で伊藤が言った「(自分の好きな人が)どんなふうに人を好きになるか見たかった」という言葉。あとエンディングの高梁和也さんの「うしろむきの私」も良いですね。作中に出てくる海の色が思い浮かびます。
*1 | 「エモい」が言わんとすることは、私も何となく分かります。自分自身がかつて経てきた経験や記憶と重なって懐かしく、時に胸が締めつけられるような……ああ、このときにはもう帰れないんだ、みたいな感覚。私が何となく嫌なのは、そんな複雑な感覚を「エモい」というひと言で表すことへの抵抗かもしれません(笑)。 |
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