2014年公開の『最愛の子』、人身売買組織による子どもの誘拐をテーマにした社会派映画。一部脚色はあるものの、実話が基になっていて、先日見た『少年の君』に続いて中国社会の課題を考えさせられる映画だった。

【ネタバレがあります】

最愛の子(中国/2014年)

2009年、中国の深圳。ティエンは3歳の息子と2人で暮らしていたが、ある日、そのひとり息子が突如行方不明となる。駅の防犯カメラの映像から息子は何者かにさらわれたと判明。ティエンは別れた前妻のジュアンと必死で息子の捜索を続けた末、3年後に深圳から遠く離れた農村でかわいいわが子と再会する。しかし今や息子は実の両親を覚えておらず、誘拐犯の妻であるホンチンを母親として慕っていた。

映画は親が誘拐された子どもを見つけるまでが描かれるのかと思いきや、半分過ぎたあたりで子どもは見つかる。後半は誘拐された子どもを育てていたほうの母親を軸にしたストーリー展開。

誰も幸せにならないのが印象的だった。

実の子どもを誘拐された親は言わずもがな。けれど育てていた母親は、死んだ夫から「捨て子だった」と聞かされていたため誘拐された子だったなんて知る由もない。ある日突然「誘拐犯の妻」呼ばわりされるようになり、実の親元へ帰るとはいえ、最愛の子どもは目の前からいなくなるのだ。

もっとかわいそうなのは子どもだろう。実の親を忘れている以上、彼らにとっての親は「育ての親」なのだ。だのに親から引き離され、会うことさえもかなわなくなる。初めて会うような人を「実の親」だと聞かされても、それを6歳前後の子どもに受け入れさせるのはあまりに酷だ。子どもの気持ちを考えればもっとうまいやり方があるんじゃないかと感じたが、そこは中国だからか、やり方が杓子定規だなあと感じた。

実の親元に帰ってきた子どもがふと父親に尋ねる。

你们是不是离婚了?
あなたたちは離婚したの?

子どもが両親のことを”你们“(あなたたち)とは言わまい。父親からすれば、自分の子どもなのに子どもでなくなったような複雑な思いを抱いただろう。ちなみに日本語字幕は「おじさんたち離婚したの?」となっていた。よそよそしい感じがよく出ている。

育ての親を演じたのはヴィッキー・チャオ(趙薇)。実はかつてお会いしたことがあるのだが、とても美しい方。だのに映画の農村で暮らす女性役がびっくりするほどハマッている。公安局での取り調べ時にしゃがんじゃう感じ*1とか、あと方言もずいぶん上手に話す。映画の設定では安徽省の農村ということになっていたが、なるほど、ヴィッキー・チャオも安徽省出身らしい*2

冒頭にも書いたが、この映画は実話を基にしている。中国で誘拐は今も珍しい話ではない。だから都市でも農村でも子どもだけで歩かせるのはご法度。私が中国に留学していた時分、子どもにひもをくくりつけ、まるで犬を散歩させているような親を見たことがあった。ちょっとひどいんじゃないかと思ったが、中国のこうした事情を知れば理解できるようになる。

★★★★☆

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References
*1いわゆる「ウンチングスタイル」ってやつ。
*2中国のメディアによると、確かに生まれ故郷の方言ではあったものの、数十年近く口にしていなかったため当初は自信がなかったそうだ。出演が決まってから安徽省出身の人とは方言でしか話さないよう心がけるなど、それなりに役作りに苦労したらしい。