先日、同僚から在ウクライナ中国大使の名前は日本漢字でどう書くか聞かれました。大使の名前は中国の漢字(簡体字)で書くと“马升琨”。確かにこれを日本漢字にしようとすると少し困ったことになります。というのも“”は「馬」で、“”は「琨」ですが、“”という漢字は「升」と「昇」の2通りありえるのです。

これが以前も記事に書いた「複数の漢字を1つに統一してしまった」問題です。

昨日は穀雨
最近雨が続いています。先週の金曜日に降って、今日も雨。北京は雨が少ない地域です。最後に傘を差したのがいつだったか思い出せないくらい。調べると、北京の年間降水量は約600mmで、東京の約1500mmや大阪の約1700mmに比べると半分以下です。大陸性高気圧、北京の場合は「シベリア高気圧」に覆われているので雨が少ないそうです。昨日は二十四節気の1つ「穀雨」でした。穀物の成長を助ける雨という意味です。この頃には田畑の用意が整い、これに合わせて雨が降るんだそうです。こうして本当に雨が降るんだから、昔の人は賢いなあとつ...

もともと伝統的な中国語で「升」と「昇」は別の漢字として扱われます。現代の日本語でも区別して扱われ、例えば「升」はマスという意味で使われ、「昇」はのぼるという意味で使われます。けれど中国(中華人民共和国)では今から70年前に文字改革をした際、より簡単に漢字を書くことを目的に「升」と「昇」は“発音が同じだから”という理由で「升」に統一してしまったのです。だから日本語で「昇級」と書くところを中国では“升级”と書きますし、「上昇」も“上升”と書きます。

なので“马升琨”という名前を日本漢字で書く際には「馬升琨」と「馬昇琨」の両方がありえます。こういうときは……本人に聞くしかありません。けれどそれはできないので、想像力を膨らませて「どういう意味をもって名前を付けられたか」と考えるしかほかないのです。

マスの意味がある「升」と、のぼるという意味がある「昇」。だったら「昇」のほうが名前に相応しいのではないか……そう思えてしまいますが、いざ漢和辞典を引くと「升」という漢字にも「のぼる」「栄える」「みのる」という意味があり、名前に使えそうです。そうなると、もうお手上げ(^^;)。

最終的には台湾や香港といった、今でも伝統的な漢字(繁体字)を使う地域のメディアがどちらの漢字を採用しているか調べて参考にします。Yahoo!奇摩(台湾のYahoo!)でフレーズ検索*1すると「馬升琨」は2,370件で、「馬昇琨」は1件でした。こうなると答えは明らかで、日本漢字でも「馬升琨」と書いたほうが良さそうです。

こういう問題は日本人にも起きます。例えば「龍」「竜」は中国の漢字だとどちらも“”です。すると「龍二」という名前を中国の漢字にすると“龙二”になりますが、日本の漢字に再度戻そうとしたら「龍二」と「竜二」の2通りありえます。この場合「龍」「竜」どちらも「りゅう」=ドラゴンという意味なので、まあ、どちらもありえるでしょう。

けれど漢字の意味が変わってしまう場合は厄介です。例えば「優斗」という名前は中国の漢字にすると“优斗”になります。ただ中国では日本漢字「闘」にも“”が使われます。例えば「戦闘」は“战斗”、「闘争」は“斗争”と書きます。だから「優斗」という名前は中国の漢字にすると“优斗”になりますが、これを日本漢字に戻す際に「優闘」にされてしまう“可能性”もあるのです。

ここまで考えて中国の漢字を日本の漢字(ないし伝統的な漢字)に直してあげられればいいのですが、残念ながらそうでないことが多いのも事実です。70年前の文字改革によって特に漢字の本場・中国では伝統的な漢字に造詣がある人が極端に少なくなっています。もしかしたら日本人以上に漢字の知識が失われつつあるといっても過言ではないかもしれません。

References
*1ダブルクォーテーション「”」を使った検索方法のことです。例えば“東京都”と検索すると、必ず「東京都」というフレーズが正確に記載されたページがヒットし、「東京都庁」や「東京都立公園」などは検索結果に表示されません。