今年の“两会”*1が閉会した。閉会後、新しく首相に就任した李強氏の記者会見が行われた。
新しく就任した李強首相、歩き方といい、話し方といい、何だか「近所のおっちゃん感」がある。にこにこしていて、エリートだった前の李克強首相に比べると、たたき上げといった雰囲気だ。それだけに中央での政治経験のない李氏の手腕は未知数。「ゼロコロナ」政策で停滞した経済の立て直しが喫緊の課題となる中、どういう経済政策が展開されるか、乞うご期待……というところか。
ちなみに、中国のお偉い方々はよく会見で故事成語やことわざといった、難しい中国語を使う。会見を聞いていて“中国有一句话说……”(中国のことわざにいわく……)などという発言が始まるや「キタキタ〜!」と心臓の鼓動が早くなる。今回就任した李強首相は歴代の首相に比べるとそこまで多用していなかった。それでも私のような純ジャパが聞くと「??」となる中国語表現が出てくる。
像我们这一代人,小时候听得最多的故事是大禹治水、愚公移山、精卫填海、夸父逐日等等,都很励志,讲的都是不怕困难、不畏艰险、勇于斗争、自强不息的精神,中国人从来没有被任何困难所压倒!
我々のような世代の者は、幼い頃によく「大禹治水」「愚公移山」「精衛填海」「夸父逐日」といった物語を聞いた。どれも自らを奮い立たせてくれるもので、困難を恐れず、危険を恐れず、勇敢に戦い、たゆまず励む精神を教えてくれた。中国人はこれまでどんな困難にも圧倒されたことはない!
「大禹治水」「愚公移山」「精衛填海」「夸父逐日」なんて羅列されても「ひぃぃ~~」だ。こういう中国語をその場で即座に訳さねばならない通訳の人たちって本当にすごい。私だったらお手上げだろう。うちいくつかは日本語でもそのまま通用するが、あまり詳しくない人に訳すなら「黄河の治水を成し遂げた大禹」、「山さえも動かした愚公」、「こつこつ石を運んで海を埋めた精衛」、「太陽を追った夸父」くらい言わなければ、理解できないだろう。
意味を知っているか知らないかで、故事成語は伝わり方が全く違う。「知っている」人に対しては漢字4文字だけでバックストーリーはもちろん、そのストーリーが持つ教訓さえも一瞬で伝えることができる。逆に言うと「知らない」人には全く伝わらない。
ちなみに会見には英語の逐次通訳も付いていた。どう訳していたのだろうか。
People of my generation are familiar with stories of heroes in Chinese legends like Dayu who tamed the flood, Yugong who moved the mountains, Jingwei who carried stones to fill up the ocean, and Kuafu who chased after the sun. These inspiring stories are testament to the spirit of resilience tenacity and the perseverance that has defined the Chinese nation. We, the Chinese people have never been crushed by any difficulty.
私の世代の人たちは、洪水を鎮めた大禹、山を動かした愚公、海を満たすために石を運んだ精衛、太陽を追いかけた夸父など、中国の伝説に登場する英雄の話をよく知っている。これらの感動的な物語は、中華民族の特徴であるレジリエンス、粘り強さ、忍耐の精神の証である。我々中国人はいかなる困難にも打ちのめされたことはない。
うーむ、さすが。日本人ならまだしも、欧米の中国語通訳者にこんな訳が即座にできるだろうか*2。他山の石だと思って、私ももっと真面目に勉強しよう。