先日、中国東部の江蘇省蘇州で日本人の親子が刃物を持った男に襲われた事件で、男を止めようとして刺されて治療を受けていた中国人の女性が亡くなりました。
地元警察のホームページによると亡くなった女性は胡友平さん。上のリンク先には胡さんの顔写真も掲載されていました。そして事件当時の様子も説明されています。
6月24日16时许,胡友平在苏州高新区塔园路新地中心公交站台发现有人持刀行凶,立即奋不顾身上前阻止,被犯罪嫌疑人连捅数刀,经抢救无效不幸离世。胡友平在他人面临严重生命威胁时,不顾个人安危,挺身而出,勇于同违法犯罪行为作斗争,避免更多人遭受伤害,展现出英勇无畏、匡扶正义的崇高品质,有力弘扬了社会正气。
6月24日16時頃、胡友平さんは蘇州高新区塔園路にある「新地中心」バス停で刃物を持った人物が暴れているのを見つけ、身を挺して阻止しようとしたが、犯人に数回刺され、救命の甲斐なく亡くなった。胡友平さんは他人の命が脅かされている状況に直面し、自らの危険を顧みずに立ち向かった。そして違法な犯罪行為に対して勇敢に戦い、負傷者が拡大するのを防いだ。彼女のふるまいは勇敢で正義感のある高い資質を示すもので、社会の正義を力強く発揚した。
目撃者の話によると、犯人の男はスクールバスに乗り込もうとしたとのこと。もし胡さんが止めてくれなければバスに乗っていた日本人学校の子どもたちへ被害が広がったとみられています。胡さんが身を挺して子どもたちを守ってくれたこと、感謝の気持ちでいっぱいです。何とか持ちこたえてくれたらと祈っていたのですが……本当に残念なことです。
犯人がスクールバスを襲った動機は明らかになっていません。日本人を狙ったものかどうかも分かりません。けれど胡さんは命を懸けて日本人を守ろうとした中国人がいることを知らしめてくれました。北京の日本大使館は胡さんを追悼するコメントを出し、この中で「彼女の勇気と善意が大多数の中国国民を代表するものだと信じています」と書いていました。私もそう信じています。
日本では再生回数を稼ぐことが目的の迷惑系YouTuberが何かと話題になります。実は中国も同じで、過激な行為に走って注目を集めようとしている一部の動画配信者がたびたび問題になります。で、これが日本と無関係ではないのです。と言うのが、日本を叩けば中国では結構な再生回数に繋がるからです。少し前に中国人男性が靖国神社で放尿するような仕草をしたり落書きをしたりする様子を撮影した動画が注目を集めました。あれなんかまさに「日本を叩けば再生回数に繋がる」と考えた迷惑系動画配信者です。
この動画配信者は“铁头”(鉄頭)というアカウント名を名乗る、中国ではそこそこ知られているインフルエンサーです。ただ中国国内でも「お騒がせ」な動画配信が多いようで賛否は分かれていて、私の周りの中国人は「全く賛同できない」「軽蔑する」なんて批判する人がほとんどです。けれど面白がる人は一定数いるようで、特に日本批判の動画は「英雄だ」「よくやった」なんて言う人がいるのも事実です。このように日本批判は彼らにとって、一番安全で、低コストで、知名度を高めやすく、SNSのフォロワー数を増やすためにもっとも効果的で便利なツールです。
スクールバスを襲った事件の直後、中国国内のインターネット上では日本人襲撃を称賛する声がみられました。けれど今回の胡さんの死をきっかけに中国のインターネット上では流れが変わったように思います。日本なら叩いても良いという認識は誤っているというコメントが広がっているからです。
今回の事件は日本人の親子が巻き込まれたとはいえ、結局は「刺したのも中国人、亡くなったのも中国人」です。私の中国人の知り合いはSNS上に「日本批判に忙しい迷惑系の動画配信者たちは自分たちの利益のために同胞の命や安全を犠牲にし、我が国が長年築き上げてきた国際的なイメージを損なっている。このような人々は100年前なら売国奴と呼ばれただろう。現在でも厳しく取り締まり、厳罰に処すべきだ」と書いていました。
日本も他人事ではありません。今回の東京都知事選を見てみると本気で当選するつもりがあるのか疑問に思う候補者が何と多いことでしょう。政見放送といい、ポスターといい、選挙を侮辱しているようにしか思えません。知名度を向上させるために目立ちたいだけ……とみられる候補者もいて、これでは中国で再生回数を稼ぐために日本を批判する迷惑系の動画配信者と何ら変わりません。
今回の胡友平さんの死をきっかけに、中国の人たちだけでなく、私たち日本人も一度立ち止まって考え直す必要があるんじゃないかと思います。