妻が37.7度の発熱。日本にいた頃から新型コロナウイルスに感染したことがないので、ついに……と覚悟し、棚の奥から抗原検査キットを取りだし検査してみた。しかし、結果は陰性。いやいや、抗原検査はPCR検査に比べて精度が劣るなんて話も聞いたことがあるので、私も万一を考え、在宅勤務をさせてもらうことにした。

夕方になって熱を測ると39.5度に。再度抗原検査をするも陰性。これはもしや……と思い、病院に行くことにした。

向かったのは海外保険が使える、主に外国人などが利用する病院。常時英語の通訳がいるほか、時間によっては日本語でも対応してくれるようで、私たちが到着したのは午後7時だったけれど日本語通訳がいた。ただ失礼ながらあまり日本語がお上手ではないというか、訳してもらっているとまどろっこしくて、結局私が直接やりとりすることに。

診察は物腰が柔らかで、かつテキパキとしていて、問診も非常にスマート。血圧を測りながら「症状は?アレルギーは?飲んだ薬は?」と質問が矢継ぎ早に質問が飛んできて、医師にバトンタッチすると、のど、耳、鼻の検査、聴診の次は触診、血液検査のために採血をして……と無駄がない。

しばらく病室で待っていると、医師が診断書を持って戻って来た。結果……果たしてインフルエンザA型だった。聞くと、北京で今流行っているらしい。タミフル、解熱剤(イブプロフェン)、トローチを処方してくれることになった。

私が「あの……私は出勤できるんでしょうか」と恐る恐る聞くと「あなたにもタミフルを処方するから予防として飲みなさい」と言う。妻は1日2回服用するところ、私は1日1回らしい。予防でタミフルを服用するなんて聞いたことがなかったけれど、日本で予防投与は保険対象外(自費)だかららしい。私もいただけるなら、ということで処方してもらうことにした。

しかし、油断して自分の保険証書を持ってきていなかった。

受付で「保険証書がないと処方は無理ですよね」と聞くと「処方はできますよ。自費になりますが」と言う。いくらか尋ねると「1000元くらいですかね」。せ、1000元!(約20000円)。保険証書さえあれば自己負担なしでもらえるのに、2万円はちょっと……翌日改めて来てもいいですか、なんてやりとりをしていると、隣から女性の看護師が「あとから写しを送ってもらえばいいじゃない、どうせ私たちの手元で保管するのも写しなんだから」と受付のスタッフに言ってくれ、晴れて私も後から証書をスキャンしたデータを送るという約束付きで処方してもらえることになった。

何から何までスムーズで(おまけに融通も利くし)感動してしまった。それに比べて中国の一般市民は大変だ。だって一般の病院ではこうはいかない。診察の予約を取ることに始まり、何の検査をするにも行列に並んで、もとよりグッタリしている人が更にグッタリしてしまう。

こう言っちゃなんだけど「特権階級」(もちろん私たちも含めて)のための医療もあるんだなあ。医師も看護師も皆さん親切にしてくれたので本当に感謝しているんだけど、この巨大な格差にはちょっと言葉を失ってしまう。

しかし、これだけの医療サービスを「自費」で受けたら大変な額になっていただろう。やはり海外では保険が欠かせない。